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福岡高等裁判所 昭和50年(行コ)6号 判決

控訴人 鳥栖税務署長

訴訟代理人 布村重成 中村程寧 ほか四名

被控訴人 サンポー食品株式会社 ほか一名

主文

一  原判決主文中第二ないし第四項の部分を取消す。

二  被控訴人らの右部分の各請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審共被控訴人らの負担とする。

事実

控訴指定代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、左のとおり一ないし三を付加する外は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴指定代理人の主張

控訴人において、被控訴人サンポー食品株式会社(以下「被控訴人会社」という)の簿外資産である架空名義預金の資産化状況を鋭意解明したに拘らず、結局その解明ができなかつた使途不明金は、左の(一)ないし(四)の諸事情に鑑み、被控訴人会社の代表取締役である被控訴人大石忠蔵(以下「被控訴人大石」という)個人の臨時的給与、つまり賞与と認定することができるというべきである。即ち、

(一)  被控訴人会社は、被控訴人大石が大正一〇年頃から個人で営んできた米・麦・麺類の仕入販売業を、昭和二四年六月、資本金二〇〇万円にて法人組織とされたものであるが、昭和三八年七月資本金を七〇〇万円に、同四二年七月一二〇〇万円に増資して今日に至つた被控訴人大石を中心とする同族会社であること。

(二)  別添株主構成表記載のとおり、被控訴人会社の株式は、被控訴人大石の一族がこれを保有し、被控訴人大石の持株が全体の半分近くを占めており、被控訴人会社の役員構成も、別添役員構成表記載のとおり、被控訴人大石の一族で占められている上、被控訴人大石とその長男忠の外は全て非常勤役員であり、常勤役員である専務取締役の長男忠は、本件係争事業年度の昭和三七年三月から同四〇年八月までの間、被控訴人会社の大阪営業所勤務であり、被控訴人会社経営の実権は専ら代表取締役である被控訴人大石独りがこれを掌握していたこと。

(三)  被控訴人大石は嘗てその家計又は私的用途のために被控訴人会社の資金を流用した事実があること。

(四)  被控訴人会社の簿外資産である架空名義預金を管理操作していたのは被控訴人大石本人であること。

右(一)ないし(四)の事実関係のもとにおいては、架空名義預金から引出された使途不明金は、全て被控訴人大石個人が受領したと推認することは容易であり、殊に当該使途不明金が被控訴人会社に留保されておらず、且つ被控訴人大石においてその使途につき何ら首肯納得するに足る具体的説明をしない本件においては、右の推認に疑問を挿む余地はない。

従つて、被控訴人会社の簿外資産である架空名義預金から引出された使途不明金につき、全てその代表取締役である被控訴人大石において費消し又は同人に帰属したものとして、同人に対する賞与と認定したことに基づいた本件各処分には何ら不当違法な廉は存しない。

しかして、被控訴人会社に対する本件納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分並に被控訴人大石に対する本件(再)更正処分の基礎をなす、被控訴人大石に対する各係争事業年度毎の認定賞与額の明細は、別紙認定賞与明細表(一)ないし(四)記載のとおり(但し、被控訴人会社の関係においては、昭和三九年事業年度の認定賞与額は金一九五万四七六五円)であり、右各認定の主たる根拠は、大要、同明細表摘要欄記載のとおりである。

二  被控訴人ら訴訟代理人の答弁

控訴指定代理人の前項主張事実中、被控訴人会社の株主構成が別添株主構成表記載のとおりであり、その役員構成が別添役員構成表記載のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。

三  証拠関係〈省略〉

理由

第一被控訴人会社に対する法人税の(再)更正処分の正当性について。

右についての当裁判所の認定判断は、原判決がその理由において三九丁から五七丁裏四行目までに説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

第二被控訴人会社に対する源泉徴収所得税の納税告知処分の取消請求について。

一  同被控訴人主張の請求原因4、5の事実は当事者間に争いがない。

二  ところで〈証拠省略〉を総合すると、控訴人は被控訴人会社の簿外預金につき昭和三七ないし昭和四〇各事業年度における期末現在高から期首繰込高を差し引いた増加分のうち、資産化されたものを除外し、資産化状況不明の金額を被控訴人会社の代表者である被控訴人大石個人に対する臨時的給与即ち賞与と認定した上、被控訴人会社に対する源泉徴収所得税の本件納税告知処分を行つたこと、右認定賞与額の明細は、各係争事業年度毎に別紙認定賞与明細表(一)ないし(四)記載のとおり(但し、(三)の昭和三九事業年度における認定賞与額は、被控訴人大石に対する関係において後に再更正処分により加算された金三八万七〇九四円を控除した残金一九五万四七六五円である)であるが、その賞与認定の具体的方法は、大要次のとおりである。即ち、控訴人において、被控訴人会社の簿外資産である架空名義預金の払出金の使途、預入金の性質、及び被控訴人会社の貸付金の回収等簿外取引から生じた利益金の行方を刻明に追及、解明した結果、被控訴人会社名義に資産化されてない金額のうち、明らかに代表者である被控訴人大石個人の用途に消費されたことが判明した分と結局は使途不明に終つた分があつたが、後者の使途不明金については、被控訴人会社と被控訴人大石間の諸般の事情、殊に、被控訴人会社は代表者である被控訴人大石を中心とする個人会社ないし同族会社であること、当時被控訴人会社の経理、営業等会社経営の一切は、被控訴人大石がその実権を掌握していたこと及び被控訴人大石やその補助者らは控訴人から再三に亘り使途不明金の説明を求められても何ら首肯納得するに足る使途を明らかにできなかつたこと等の事情から、当該使途不明金は代表者である被控訴人大石に対する賞与金である旨推認するに至つたこと、しかして個々的な認定賞与の態様は、前同明細表(一)ないし(四)の各摘要欄記載のとおりであり、賞与支給日の認定は、被控訴人大石個人の借入金の返済に当てられた昭和三九年九月一八日の金三〇万円(前同明細表日(三)の番号15)について支給日を右同日と認定した外は、二月一日から翌年一月三一日までの一事業年度分をまとめて当該事業年度末から二ケ月先の三月三一日をもつて支給日と認定したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  そこで前認定事実に基き、控訴人のした賞与認定処分の適法性について考えるに、凡そ代表者の個人会社ないし同族会社と目される法人の簿外資産たる使途不明金については、首肯するに足る合理的な使途の説明がない限り、原則として、当該使途不明金は、之を代表者個人に対する臨時的給与、即ち賞与金と推認するを妨げないというべきところ、前示のとおり、被控訴人会社が被控訴人大石を中心とする個人会社ないし同族会社である事実(被控訴人会社の株主が別添株主構成表記載のとおりであり、役員が別添役員構成表記載のとおりであることは当事者間に争いがない)、被控訴人会社の経理、営業等会社経営の一切につき、被控訴人大石が実権を掌握していたこと及び被控訴人大石その補助者は控訴人から再三に亘り使途不明金の説明を求められたに拘らず首肯納得するに足る使途の説明をしなかつたかできなかつたこと等の諸事情に照せば、控訴人において、当該使途不明金は代表者である被控訴人大石に対して支出された臨時的な給与、即ち賞与であると推認し且つ賞与支給日を現実の支出日(前同明細表(三)の番号15の金三〇万円の昭和三九年九月一八日)又は事業年度毎に当該年度末から二ケ月先の三月三一日(前同明細表(一)ないし(四)のうち(三)の番号15を除く分)と認定した上、被控訴人会社に対しその源泉徴収所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をしたことは妥当且つ適法であり、その間になんら不当違法と目すべき点はないといわなければならない。

してみると、控訴人の賞与認定処分の違法無効を主張して、本件各係争事業年度における源泉徴収所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(但し、裁決により取消された部分を除く)の取消を求める被控訴人会社の本訴請求は失当であるから、之と結論を異にする原判決を取消した上、被控訴人会社の右請求は棄却されなければならない。

第三被控訴人大石に対する所得税の(再)更正処分の取消請求について。

一  控訴人の本案前の主張について

控訴人の本案前の主張についての当裁判所の判断は、原判決理由五八丁裏末行から六〇丁表三行目までと同一であるから、これを引用する。

二  本案について

(一)  同被控訴人主張の請求原因7、8の事実は当事者間に争いがない。

(二)  しかして控訴人認定に係る被控訴人会社から被控訴人大石に対する賞与額が別紙認定賞与明細表(一)ないし(四)記載のとおりであり、右認定に違法不当な点の存しないこと前判示のとおりであるところからすれば、原判決別表(三)記載のとおり、同被控訴人の昭和三八ないし四一年度の各確定申告額に夫々対応する年度の認定賞与額を加算して(再)更正処分額を算出した控訴人の措置(但し、昭和三八、三九年度分については裁決により取消された分を除く)に何らの違法はないといわなければならない。

(三)被控訴人大石は、同被控訴人に対する各(再)更正処分のうち、昭和三八年度分は法定申告期限の昭和三九年三月一五日から三年を経過した日以後である昭和四二年三月二二日付をもつてなされているから、国税通則法第七〇条第一項第一号に違反し、違法である旨主張する。

然しながら、被控訴人大石は被控訴人会社から支給を受けたと認められる賞与金につき、確定申告することなく之を隠ぺいし、その所得税額の一部を不正に免れていたものであること前示のとおりであるところからすれば、控訴人は同法第七〇条第二項第四号により、法定申告期限から五年を経過する日まで、即ち昭和三八年度分については昭和四四年三月一四日までに更正処分を行えば足るとされているのであるから、それ以前である昭和四二年三月二二日なされた昭和三八年度分の更正処分は同法条に違反してないことが明らかであり、この点の被控訴人の主張は採用できない。

(四)  更に、同被控訴人は、本件各(再)更正処分には、同一売上脱漏額につき、一方において被控訴人会社に対し法人税を課しながら、他方において被控訴人大石に対し所得税を課する重複課税を敢てした違法がある旨主張する。

然しながら、役員賞与は法人税法上損金不算入とされている(法人税法第三五条第一項)のであるから、被控訴人会社の売上脱漏額から被控訴人大石の認定賞与が発生した場合において、被控訴人会社に対し売上脱漏額に見合う法人税を課すると共に被控訴人大石に対し認定賞与に見合う所得税を課することは至極当然の措置というべきであり、控訴人の本件各(再)更正処分に重複課税を敢てした違法があるということはできないから、この点の被控訴人の主張も採用の限りでない。

(五)  してみれば控訴人の賞与認定処分の違法無効を主張して、本件各係争年度における所得税の(再)更正処分(但し、裁決により取消された部分を除く)の取消を求める被控訴人大石の本訴請求は失当であるから、之と結論を異にする原判決を取消した上、被控訴人大石の右請求は棄却されなければならない。

第四以上の次第にて、本件控訴は理由があるから、原判決主文中第二ないし第四項の部分を取消した上、被控訴人らの右部分の各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 鍋山健 原田和徳)

株主構成表、役員構成表及び別紙(一)ないし(四)〈省略〉

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